エピソード 1:AI の潜在能力を引き出す
台本のないコンパニオンガイド
データでイノベーションを起こした企業の実体験や具体的な教訓を通して、データ / 分析分野の著名な実業家によるインサイトを得ることができます。また、Barts Health NHS Trust のレポーティングテクノロジー責任者、Deepa Tambe 氏がご紹介するビデオガイドでは、データ専門家が AI の可能性を最大化する方法について語っています。
出演者
Henri Rufin 氏
Deepa Tambe 氏
はじめに
執筆者 : Ronald van Loon 氏
CEO 兼分析部門長 Intelligent World 社
生成 AI がもたらす影響と効果 : ビジネスの混乱・チャンス・未来
AI が進化し、変革の時代が到来しました。汎用人工知能(生成 AI)のイノベーションが一般社会に普及し、誰もが利用できるようになったことからも明らかです。
生成 AI は瞬く間に大きな注目を集め、生成 AI を取り巻く状況は急速に進化していきました 現在、企業が注視しているのは、無限とも思える生成 AI の可能性をどのように活用するのかです。
現在の生成 AI に対しては、慎重ながらも楽観的であり、戦略的適応と責任ある管理に共同で取り組んでいるように見られます。しかし、この強力なテクノロジーから商業的価値を生み出せるようになるには、道半ばであると言えます。その一方で、生成 AI の導入率は飛躍的に上昇しています。Qlik の「Generative AI Benchmark Report」では、ビジネスリーダーの 79% が、生成 AI ツールまたはプロジェクトに投資していることがわかりました。
「大いなる力」には「大いなる責任」が伴います。AI と生成 AI は、多くの業界に多大な混乱を引き起こすため、統制とリスク管理に積極的に取り組むことが急務となっています。しかし、従業員が私生活で AI や生成 AI を利用している可能性があるにもかかわらず、多くの企業が、社内利用におけるポリシーを確立していないというのが現状です。
また、倫理的・セキュリティ上の懸念も高まっています。その証拠に、バイデン米大統領は、AI の安全性に関する新たな基準の確立を目指す大統領令を発令しました。先日ロンドンで開催された「AI 安全サミット」における、AI の安全性に関する宣言「Bletchley Declaration」からも明らかです。
こうした動きから、AI の安全かつ責任ある開発を確保する取り組みは、全世界で進行していると言えるでしょう。国際協力・消費者保護・イノベーションの促進を重視する姿勢は、リスクを軽減しながら生成 AI のメリットを活用するための、バランスの取れた取り組みに反映しています。
各国政府がイノベーションを強化している一方、企業経営に対する生成 AI の影響は、具体化しています。マーケティング・営業・カスタマーサポートなどの部門における生成 AI の利用が増えていることから、採用活動や従業員のスキルアップの再構築が進められています。同時に、データエンジニア・機械学習エンジニア・AI データサイエンティストの需要が急増しており、プロンプトエンジニアなどの新たな職種も注目を集めています。新たな職種は、AI イノベーションに対するビジネス対応を左右します。
こうした変化は、惰性ではなく、楽観主義と戦略的な投資アプローチから生じたと思われます。経営陣の 45% が、最近の AI の進歩が AI 投資の増加を促進していると回答し、36% が正式な AI 戦略に投資しています。
幸先の良いスタートである一方、行動が常にプラスの効果をもたらすとは限りません。本ガイドでは、業界を問わず、独自の AI 戦略を推進しているデータと分析のリーダーの視点に注目し、各リーダーが示す AI を活用したデータプロセスの最適化に関する具体的なヒントを提供します。
はじめに
データ専門家が語る
AI 実例集
AI とその潜在的なビジネス価値に関する話題が尽きることはありませんが、さまざまな意見や憶測が飛び交う中、情報過多になっているのも事実です。そのため、多くのデータと分析のリーダーが AI の真のメリットを理解した上で導入までの方向性を明確に描けていないのは、当然のことだと言えます。これらのデータ分析責任者は、自社のデータチームが AI の取り組みを成功に導くための中核を担うことを認識しているものの、実践している企業が少ないため、参考になる事例がほとんどないのが現状です。
「AI に関する先進的な視点」では、AI の導入を推進しているデータと分析の専門家が、実体験に基づいた具体的なアドバイスをご紹介します。
AI から得られる効果を最大化し、人間の役割を強化するインサイトをご確認ください。さらに、学習済みのパブリック / プライベートモデルを比較検討し、イノベーション・リスク・統制・倫理のバランスなどについても議論します。
AI は、数十年前に誕生して以来、社会のさまざまな分野で急速に普及しています。その背景には、周辺テクノロジーの進歩、データの可用性の向上によるアルゴリズムの改良、用途の拡大など、さまざまな理由が考えられます。AI は、競争優位性を確保できるツールとされていますが、価値を最大化できるのかという議論や検討も引き続き行われています。その一方で、多くの業界のデータ分析部門は、さまざまな目的における AI の利用や利用計画を進めています。
第 1 章
AI のポジティブな可能性
情報から価値あるインサイトを創出
民間企業および公的機関は、AI は自社の製品やサービスの価値を高めるチャンスだと考えています。こうした考え方は、期待値の達成、効率化、競争優位性を高めます。
「AI は、診断の精度・患者の予後の向上、術後ケアの改善、医療費の削減を実現し、医療に革命を起こす可能性を秘めています。また、がんを早期発見できる画像診断にも活用されています。ロボット支援手術にも活用されており、鍵穴手術で患者の回復時間を短縮することができます。さらに、AI は生産性を高めて医療業務を効率化し、より多くの人に質の高い医療を提供できるようサポートしてくれます。」
Deepa Tambe 氏 Barts Health NHS Trust レポーティングテクノロジー責任者
Lloyds Banking Group 社のデータ / 分析戦略部門シニアマネージャーの Mitul Vadgama 氏は、AI が銀行業界にもたらす価値について説明しています。「AI は、パーソナライズされたサービスを提供し、セキュリティの強化・業務の最適化・データ主導型の意思決定を可能にします。銀行をはじめとする金融サービスを変革する可能性を秘めているのです。AI テクノロジーを導入すれば、急速に変化する業界で競争力を維持することができ、銀行はより良いサービスを顧客に提供できるでしょう。」
Dave Elliott 氏は、世界的なベビー用品ブランド「Tommee Tippee」を擁する Mayborn Group 社で、グローバルデータ / 分析部門マネージャーを務めています。AI を活用してサービスを向上し、顧客のニーズに応えられるよう、裏方業務の改善に努めています。同氏は次のように述べています。「AI は、サプライチェーンを改善・最適化します。さらに、自然言語処理や生成 AI による消費者エクスペリエンスの向上、売上・需要予測など、AI が得意とする分野で、多くの機会を提供してくれます。」
AI の継続的な活用が Mayborn Group 社にもたらすメリットは、まだまだあります。Elliott 氏の同僚で、BI 部門主席スペシャリストの Mark Little 氏は、次のように説明しています。 当社では、さまざまな目的に AI を活用しています。最も大きな成果を挙げているのは、センチメント分析です。AI であらゆるプラットフォームからすべてのレビューを確認し、パフォーマンスの全体像を把握することができます。AI がなければ、すべてのテキストを照合して確認するしかなく、膨大な時間を費やすことになっていたでしょう。」
AI は意思決定の強化をサポートすると確信しているのは、民間企業だけではありません。 Calderdale and Huddersfield NHS Foundation Trust が運営する The Health Informatics Service の企業情報管理責任者である Calum MacIver 氏は、AI を活用した予測機能から大きなメリットを得ていると力説しています。
「NHS では、診断の補助から入院・受診の予測まで、AI の用途が広がっています。AI を活用した分析が、医療サービスのあらゆる分野の研究を新たな道へと導いていくのを実感しています。」
迅速に優位性を得る
スピードは、専門家が AI の効果を特に実感している要素で、ビジネスにおける AI の価値を語る上で明白なテーマでもあります。データおよび分析部門は、さまざまな情報から具体的なビジネスインサイトを得る上で、中核となる部門です。膨大なデータからリアルタイムのインサイトを得るには、手作業の分析に多くの時間を要します。分析が完了する頃には、最新のインサイトではなくなっていることも珍しくありません。AI は、間違いなくこうした状況に大きなメリットをもたらします。
ブラジルのレンタカー企業である Localiza & Co. 社のデータプロダクトマネージャー、Priscila Papazissis 氏は次のように述べています。 “AI は、当社のデータと分析へのアクセスを変革し、データ主導型の意思決定を加速しています。機械学習アルゴリズムのおかげで、劇的なスピードで膨大なデータを取得・処理・提示できるようになりました。事象が発生してから分析結果を収集するまでの時間を短縮することができたため、より迅速に情報を得て、成果につながる最適な意思決定ができるようになったのです。」
SDI 社のデジタルサプライチェーン変革部門ディレクター、John Delligatti 氏は次のように補足しています。 「AI は私自身の時間を大幅に節約してくれますが、さらに 10 人、100 人の時間を節約できるとしたら、莫大な価値を生み出すでしょう。まだ AI を導入していない場合は、今すぐ AI ツールの選定をお勧めします。そして、従業員の AI 活用を促進してください。」
未知を受け入れる
企業は、マクロ経済・テクノロジーの進歩・規制の変化による不確実性と奮闘し続けています。AI は、将来の傾向や結果を予測する予測モデルの構築に有用です。予測モデルは、データおよび分析部門が、確信を持ってビジネスを進めていく上で必要な知識を提供します。また、作業時間を短縮できるため、AI が共有するインサイトから戦略的な思考を生み出すことに注力できるようになります。
「問題を特定する反復作業を AI で自動化できるため、データによる意思決定を変革することができます。人間の目検だけでデータに潜む不正行為を特定することは、ほぼ不可能です。」
Priscila Papazissis 氏
AI が NHS のような大規模な老舗企業にもたらすチャンスについて、Calum MacIver 氏は次のように説明しています。「データへのアクセスという点では、AI はまだ機能しているとは言えません。必要なデータの取得には、未だに伝統的な実績のあるプロセスに依存しているからです。それよりも、取得したデータをどのように活用するのかを重視しています。データにおけるパターン・予測・異常の検出という 3 つの領域で、AI 、つまり機械学習を最大限に活用できると期待しています。」
Deepa Tambe 氏は、未知を予測する AI の可能性について、MacIver 氏の見解に同意しています。 「医療業界では、患者とのやり取りや機器の操作などから膨大なデータを収集します。必要なのは、データを活用して有益なインサイトを得ることです。問題点や救急外来の患者の流れ、高まる医療需要への対応に必要なリソースの予測が、質の高い医療の提供につながると信じています。当社は、予測分析とアラートの仕組みを利用して、運営チームに適切なベッドの種類に関する要件の提供を実現しています。このシステムは、新型コロナウイルスのパンデミックがピークにある時に開発されました。医療機関にとって極めて有益です。」
導入前にニーズを定義
昨今の AI に関する誇大広告を見聞きすると、多くの企業が AI を早急に導入したいと考えるのは当然のことでしょう。しかし、解決したい課題を評価する前に、焦って AI を導入するのは危険です。「先進的な視点」では、“AI の導入自体が目的ではない”という意見に、参加者全員が同意しました。AI 戦略は、問題や課題を明確にすることから始めるべきです。
AI に費やした時間と投資から真の価値を理解して初めて、AI の力を最大限に活用できるようになります。
Mark Little 氏は、次のように指摘しています。「AI はビジネスに大きな効果をもたらしますが、AI から確実に価値を引き出すには、適切なユースケースを確保する必要があります。事前準備もなく、ただ漠然と AI を導入しただけでは、単なる一時的なトレンドに飛びついただけになってしまうかもしれません。結果を測定できる明確なユースケースがあれば、優れた AI エクスペリエンスを実現できるでしょう。」
Stretch Qonnect 社は、詳細かつ簡素化されたわかりやすい分析サービスで、スポーツクラブを支援している企業です。同社の創設者兼 CEO の Martin Sahlin 氏は次のように補足しています。 「誰もが AI を話題にしていますが、大半の人が導入理由や活用方法を把握していません。方向性を誤ったり、誤った情報を信じることなく、AI から期待どおりの成果を得るには、AI 戦略や投資に対して明確かつ具体的な課題を認識しておく必要があります。また、成果を目に見える形で測定する仕組みも必要です。」
HCL Technologies 社などの企業は、主な課題を特定し、ビジネスを加速する先見的な解決策を実行しています。
「当社のデータサイエンスチームは、Python でビジネス向けに多くの機械学習モデルを作成しています。たとえば、離職予測分析です。離職するリスクが高い従業員を予測して、離職する前に該当の従業員をサポートできるようになりました。」
Rahul Gupta 氏 アソシエイトゼネラルマネージャー
第 2 章
人間の役割の再定義
新しい役割が形成され始めていますが、現時点ですべての人に適用されるわけではありません。
データ専門家が認識し始めている明白な AI のメリットは、自身が気づいていない潜在的な疑問に対する答えを提示できることです。AI は、膨大なデータを分析・処理してデータポイント間の関係を提示し、パターンを特定して予測を実行することができるからです。これにより、ビジネスユーザーやアナリストは、データサイエンスの専門スキルがなくても、自動ツールを活用できるようになります。
「AI のおかげで、最初は気づかなかったデータの関係性やコンテキストを、より深く理解できるようになりました。また、手作業による分析では見落としていた事にも疑問を持つようになりました。」と、Dolphin Consulting 社のビジネスインテリジェンスアナリスト、Michal Lecian 氏は述べています。.
AI のもう 1 つの重要なメリットは、新たな戦略的役割・責任を創出できることです。手作業のデータ処理が不要になり、データ部門は分析とインサイトの収集に専念できるようになります。
イタリアの大手家電流通企業、Unieuro S.p.A. 社の高度分析責任者である Filippo Orlando 氏は、次のように述べています。:「AI は、作業の自動化・インサイトの提供・効率性の向上で、チームの能力を強化してくれます。従業員がより高度な戦略的タスクに専念できるよう、役割の見直しを進めています。AI システムを管理・最適化するために、AI に重特化した新たな役割が生まれるケースもあります。」
Martin Sahlin 氏は 、“AI は人間の仕事を奪うのではなく、仕事を加速してくれる”という意見に同意しています。「AI に挑戦し続けるのです。AI の分析結果を批判的に検証し、その結果を注意深く監視することが重要です。将来的に、これがデータに携わる従業員の役割の大部分を占めることになるでしょう。AI が得意とする反復作業は AI に任せて、人間はより革新的な作業に専念するようにします。」
すべての企業で、こうした変化や新たな専門知識の習得に対応できる準備が整っているわけではありません。Qlik の「Generative AI Benchmark Report」では、企業の 3 分の 1 以上が、データモデルのトレーニングを社内で完全実施する計画があるとしています。その一方で、企業の 60% が外部委託を検討しており、完全に社内で実施している企業は、わずか 4% にであることが明らかになりました。
Grupo ASV 社の最高変革責任者、Mario De Felipe Pérez 氏は次のように述べています。「当社は、テクノロジーの展開を専門のパートナーに委託しています。社内における成熟度が十分で、妥当であると判断した場合は、専門人材の配置を検討する予定です。当社では、多くの従業員に AI に関する研修を実施しています。主に、生成 AI でコールセンター・法務・財務・マーケティング部門などの生産性の向上に取り組んでいます。」
第 3 章
安全性を備えた
AI イノベーションの解放
AI の真のメリットは、“導入するだけ”で得られるという簡単な話ではありません。AI のイノベーションと、これに伴うリスクのバランスを調整する必要があります。入念なテスト・規制遵守・AI 主導の取り組みを綿密に監視するなどが必要です。情報に基づいた投資の決定には、潜在的なメリットと考えられる欠点を評価することが重要です。
「ChatGPT などの生成 AI の台頭により、さまざまな分野で新たな機会と課題が生まれています。AI は人間の取り組みをどのように強化できるのかという、人間の創造的思考を促進します。同時に、倫理的かつ責任ある AI の活用や AI アプリの変化にも対応できる、継続的な調査の重要性も明確にしています。生成 AI やその他の高度な AI テクノロジーを活用し続けるには、倫理面に十分配慮しながらイノベーションを管理することが重要になります。」
Mitul Vadgama 氏
Priscila Papazissis 氏は、次のように補足しています 。「私たちは、すべてのリスクを把握した上で、AI を安全に社内利用する方法を検討・調査し始める必要があります。個人的には、AI には多くのリスクが潜在していると思うからです。」
学習済みのパブリック AI モデルには注意が必要
こうした考慮すべき点を反映した実践例として、多くの企業が AI 導入競争において学習済みのパブリックモデルを活用していることが挙げられます。自社に適した学習済みのプライベートモデルを構築するには、多くの時間と専門知識が必要だからです。しかし、専門家は、学習済みのパブリックモデルの導入には、事前準備が必要だと提言しています。
HCL Technologies 社のアソシエイトゼネラルマネージャー、Rahul Gupta 氏は次のように説明しています。 「当社では、ChatGPT や他の類似モデルで、従業員が会社の機密情報を処理することを禁止することで、データのセキュリティリスクに対応しています。共有したデータが、公にモデルのトレーニングに使用される可能性があるためです。」
Dave Elliott 氏は、生成 AI の利用に際し、データに対する疑問を投げかけることの重要性を強調しています。「生成 AI の台頭には、大きな期待と警戒の両方が伴います。企業とユーザーは、データの基本的な知識とリテラシーを習得する必要があります。知識とリテラシーがなければ、データの意味を十分に理解できず、何の疑問も抱かずに分析結果に従うだけの状態に陥ってしまいます。データを活用してより優れた意思決定をするには、ソースを問わずデータを読み解いて適切に扱い、疑問を投げかけることができなければ意味がありません。」
公開されている AI モデルに対して健全な懐疑心を持つことが重要である、というのが専門家の共通意見です。専門家は、データの品質を維持し、潜在的な偏見を理解できる能力について、懸念を抱いています。余計な情報が多く不完全なデータの管理だけでなく、曖昧なデータの処理や進化する言語への適応も考慮すべきです。
John Delligatti 氏は、独自に作成した AI の活用に価値を見出しています。 「自社の専門的な技術者に依頼して AI を開発する場合、時間はかかりますが、より優れた成果を期待できます。AI モデル・予測・生成された回答の精度に対する真の懸念は、自社のデータを基に学習したモデルではなく、学習済みのパブリックモデルが原因です。後者の場合、統計データのソースを正確に特定できるとは限りません。ChatGPT が医師国家試験で合格点を取ったニュースが報道された一方、ChatGPT が法的文書を作成する際に、実在しない判例を引用していたという例も報道されています。AI モデルが生成したあらゆるものを鵜呑みにせず、自分自身で事実確認を行う必要があるのです。」
Deepa Tambe 氏は、正確なデータの使用についても懸念を抱いており、データを使用するすべての従業員が研修を受け、その重要性を理解する必要があると主張しています。「紛れもない事実は、AI モデルが取り込むデータは、私たち自身が提供したデータだということです。正しい結果を得るには、正確なデータを取得することが必要不可欠です。引き続き、データの正確性とデータリテラシーの基本原則に焦点を当て、データや分析の経験値が不十分な従業員に対して、データ利用の重要性を理解してもらう研修を行う必要があります。誰もが AI を適切に活用できるようになれば、AI 戦略を促進できるでしょう。」
Radiall 社のデータ分析責任者である Henri Rufin 氏は、生成 AI の危険性について意見を述べています。 「生成 AI を予備知識がなく使用するのは危険だと思います。生成 AI は、ユーザーが提供したデータを利用するため、セキュリティを侵害する可能性があるからです。生成 AI を使いこなすには、基盤となるテクノロジーの深い知識、不正行為や将来発生する可能性がある倫理的な問題を回避する策が必要です。」
データ統合でリスクを軽減
AI の時代において、データの統合・管理は、確実なガバナンスプロセスと同じくらい重要性が増しています。また、新しいデータを継続的に収集すると、AI モデルが急速に変化する可能性があるため、データ管理に対するより柔軟なアプローチも必要になります。
「企業は、AI 戦略をサポートするために、データ統合プロセスを強化する必要があります。強固なデータガバナンスの実装、高度な統合ツールの導入、ETL パイプラインの自動化、データレイクの活用、リアルタイムのデータストリーミングの確保、データセキュリティとコンプライアンスの維持、パフォーマンスの監視、継続的改善の文化の醸成から実現することができます。」
Filippo Orlando 氏
Mayborn Group 社の Dave Elliott 氏は、 AI と他のテクノロジーを活用したデータ統合の取り組みについて説明しています。「データ統合は、企業のデータ戦略をあらゆる面から支える重要な基盤です。当社では、データの取得・統合の自動化をサポートする中核のプログラムを進めています。これは、現在のデータと分析をサポートするだけでなく、最先端および新興テクノロジーを開発する基盤として、社内のあらゆる業務向けに適切に管理された強固で信頼できるデータソースを構築するプログラムです。」
ガバナンスとセキュリティが最優先
企業が毎日処理するデータの量を考えると、データガバナンスは決して容易なことではありません。
「当社では、構造化データガバナンスポリシーをサポートし、データの品質確保に取り組んでいます。構造化データと比べて、音声・動画・テキストなどの非構造化データに伴う課題は非常に複雑です。当社には経験がほとんどないため、AI モデルで処理できるよう、非構造化データに適切なラベルを付けるという問題も抱えています。」
Mario De Felipe Pérez 氏
データ部門は、データガバナンスの一環として、セキュリティの課題にも対応する必要があります。Unieuro S.p.A. 社の Filippo Orlando 氏は、現在注力している取り組みについて説明しています。「暗号化・アクセス制御・プライバシー規制の厳格な遵守で、AI のデータプライバシーとセキュリティを最優先に取り組んでいます。これにより、機密情報の保護・倫理基準の維持・利害関係者との信頼関係を構築することができます。」
テストの実施
イノベーションとリスクのバランス調整が必要です。強固なデータガバナンスとセキュリティの維持を重視する一方、AI のテストを後回しにすべきではありません。少なくとも最適なユースケースを判断するには、AI のテストが必要だからです。まず明確な目標を設定し、データが適切に暗号化・保護されていることを確認することから始めれば、あらゆるテストに対応する優れた基盤を構築することができます。
テストの実施には、部門を超えて協力し、信頼できる小規模の案件から始めます。Henri Rufin 氏は次のように述べています。 「当社では、実践から学び、概念実証を信頼しています。AI は、当社が研究を進めたい分野です。生成 AI には細心の注意を払う必要がありますが、このようなテクノロジーによるリスクを恐れていては、何も実現できません。AI 戦略に着手したことで、社内全体のデータリテラシーとデータガバナンスをサポートする新たなサービスを提供できるようになると期待しています。IT やセキュリティ部門と緊密に連携し、リスクを最小限に抑えるだけでなく、実際にサービスを提供する顧客と信頼できるグループを結成して、製品化する前にテストを実施しています。」
終わりに
AI の誇大広告を現実へ
AI が企業に有益な機会をもたらすことは明らかです。AI を活用すれば、これまで以上にデータを正確かつ迅速に把握できるようになります。また、従業員の能力を強化し、優れた成果を顧客に提供することができます。さらに、データ部門の働き方を変革し、組織にもたらす価値が向上します。
すべての新しいテクノロジーと同様に、AI のような革新的技術には、誤った方向で使用されたり、データガバナンスや倫理に反して使用された場合の影響について、疑念や憶測が生じます。
Qlik の「先進的な視点」では、今すぐ AI 活用を始める方法について解説してきました。主な教訓を振り返ります。
小さく始めてテストして学ぶ
「社内のデータリテラシーを醸成することで、AI 主導型のプロセスの利用と生成物への理解を深めることができます。小さく始めて繰り返しテストし、失敗を恐れずに学び続けることが大切です。このプロセスが学びには必要なのです。」 Dave Elliot 氏
倫理的かつ責任ある AI 活用を徹底する
「AI 戦略は、一朝一夕で成し遂げられません。AI の可能性を解放するには、継続的に学習して変化に適応し、少しずつでも前進することが重要です。戦略的に AI にアプローチしていき、倫理的かつ責任ある活用で AI 戦略を推進することで、新たな機会を開拓して急速に変化する環境で競争力を維持することができます。」Mitul Vadgama 氏
「人間味」を忘れない
「AI の専門家は、患者のケアやサービスを変革するさまざまなアイデアを提案していますが、未知の領域を改善するには、患者に寄り添う人間味のあるケアが不可欠だと考えています。」Deepa Tambe 氏
テストを始める
「まだ始めていないなら、今すぐ始めるべきです。AI の導入を計画していない場合、競合他社に先を越されてしまうでしょう。AI がすべてではありませんが、テストの開始をサポートしてくれる素晴らしいツールです。自社固有の質問をして、AI の回答を確認してみてください。エラーが発生した場合は、コードを入力して AI の応答を確認してください。この方法なら、自分自身だけでなく、他部門での AI 活用も推進できるでしょう。」 John Delligatti 氏
経験豊富なパートナーと連携
「まず第一に、AI の現状を正確に理解するには、AI をテストしてみる必要があります。次に、経験と知識が豊富な優れたパートナーに相談し、想定できるビジネスケースを提案してもらいます。その後、社内のワークショップでユースケースを模索してください。」 Mario De Felipe Pérez 氏
「人間の介在」が不可欠
「AI は、既成概念に捕らわれない思考をサポートしてくれますが、AI が提示する結果には、細心の注意を払う必要があります。結果がいつも正しいとは限らないからです。これが、AI は人間の仕事を奪うのではなく、人間の仕事を強化するものだと考えるべき理由です。」Michal Lecian 氏
高品質でクリーン、統制されたデータが必須
「AI テクノロジーによる生成物は、データがベースであるということを忘れないでください。データの品質は、AI の基盤なのです。データが適切に管理されていなければ、すべてが正常に機能しなくなるため、データリテラシーに重点を置く必要があります。当社では、AI の活用を検討する前から、データ統合・ダッシュボードの自動化・データ品質のプロセスを重視してきました。私は、AI、特に生成 AI がデータの処理方法を改善するだけでなく、長期的にはデータリテラシーを向上すると確信しています。」 Henri Rufin 氏